一歌一詩

  一歌一詩

 

  1 二つの病

ますます酷くなる病に
息も絶え絶えに暮らす

明日はもっと希望が持てる
そんなのない
世は終わりに近づいている

 2 身体が弱い

貴方の体はだんだん弱くなる
時代はだんだん遠くなる

童歌が梵鐘のように重い

  3 かしこしもの

あわれ かしこしもの

嘆きの雲雀雲に隠れる

  4 美しの野原

きみがゆく 美しの野原
空も海も 雄々しく豊かであれ

  5 大前

白い小鳥が白い花を喰えてきましたよ
白いウサギが白い藁を運んできましたよ
白い馬は白い馬車で出発の準備をしてますよ

  6 御帳

真白い空間に仕切る御帳
日影も白い影を作る

 7 大殿

何処へ行くんですか
貴方のお家は此所です
暫く此所に留まり
私達と食事をし夜は寝て
朝は鶏の声で目を覚ましましょう

 8 年の暮れ

みなが望んでいたようにはとても成らない
時は誰にも平等に時間を配分する

 9 短く

不足などない
満ち足りている
不満などない
とても幸福だ

 10 幸せは続く

病になっても
思いもよらず不幸になっても
幸せは続き途絶えることがない

 11 雪が凍り

雪が凍り
茎の重みが
雪の層を固くする
かたくなに過ごせるのは
冬の厳寒期だけだよ
ヤクーツクの友よ
イルクーツクの同胞よ

 12 山国

山国東北の冬は厳しい
人がいることも
獣が住んでいることも
知らんぷりして吹雪く

 13 ラジオ放送

何の放送ですか
又戦争が始まるんですか
女達は足音も立てず
去って行く

  14 商店街

もうウレ切れなん
どうしたんでしょう
商店の戸は閉まる
店の暖簾は畳む
人の口にはベットリ糊で
紙をあてがい塞ぐ

 15 山に住む

山深い山地に住んでいる
人の不幸も知らないで
その時は
せっせと炭俵を編んでいた

   小さな紋章

誰も見ていないが
私は気がついた
このこの家が立派であれば
あるほど
紋章は輝く

  音響

海にも山にも
私の町にも
心に響く音響は
悲痛でした
 
   大砲

誰のために大砲は成る
衣使用しなければ
心地よく響くだろうか

  歩道の上に座る人

歩道の上に座る人の膝は寒く
やるせな17い出来事に日は暮れていく

  篝火

烏賊釣船の篝火のように
人の心は篝火です

  偉大な人

偉大な人はいるでしょう
余り私は知りませんが

  音

車の音 
人の足音
風の強い日に弔事の読まれた

    深い井戸を掘った人

この深い井戸は私達の
気の遠くなるような大昔の祖先も
水を汲み飲んだんです

貴方のようなよそ者が
私の民族を毛嫌いする旅人が
なぜ水を汲んでくれと言うんですか

貴方の井戸の水は飲んでも飲んでも
渇きを覚えます
私は乾かない永遠の水を貴方に与えましょうそれは使っても浪費しても減らない
幻夢のようなお金です
                      31,10,24
   車窓の父

幼子を人より高く上げ見送る
帰陣なさばこれより高く

 16 アンペラ

アンペラが好きな馬は中国の蒋介石が国民政府を樹立させたことも知らないでノンビリしている様は平和でいい

 17 済南の駅に吹き飛ばされるお尋ね者のビラ

奸なり
姦なり
ビラの男は
張宗昌

  18 支那兵が襲い来る

刃向かってくる敵の監視をしていた
支那兵が襲い来る足音に
思わず拳銃を握りしめた

 19 警戒の交代

やっと飯が食える
風呂にも入れる
少し仮眠も出来る
戦争は男も嫌いだ

 20  城壁に登る

土嚢を背負い城壁を目指す
手も足も顔も擦り傷で
血だらけになった戦友が
バタバタ倒れるように帰って来た

  21 敵の包囲

逃げた敵を追い詰めたつもりが
敵は我等を包囲した
味方の兵は打ち据えられて
家壁の攻路を潜り抜けると
敵の物言う声が
はっきりと聞こえてくる

 22  砦の上に立つ兵

漸く奪った砦に着いた兵は
恭しく礼をして
箒でゴミを掃き
塩とお酒を仮の祠に供える
       
  23  支那人

満州で戦争が始まったから
六年間もお手伝いに来てくれた支那人
泣く泣く
帰国させてしまった

 24 張学良

名前はとても勤勉家に見える
1928年は
父を爆殺される
満州軍閥の子孫は
百才まで生きる
     
 25 小さな紋章

誰も見ていないが
私は気がついた
このこの家が立派であれば
あるほど
紋章は輝く

 26 音響

海にも山にも
私の町にも
心に響く音響は
悲痛でした
 
  27 大砲

誰のために大砲は成る
衣使用しなければ
心地よく響くだろうか

  歩道の上に座る人

歩道の上に座る人の膝は寒く
やるせな17い出来事に日は暮れていく

 28 篝火

烏賊釣船の篝火のように
人の心は篝火です

 29 偉大な人

偉大な人はいるでしょう
余り私は知りませんが

 30 音

車の音 
人の足音
風の強い日に弔事の読まれた

  31  深い井戸を掘った人

この深い井戸は私達の
気の遠くなるような大昔の祖先も
水を汲み飲んだんです

貴方のようなよそ者が
私の民族を毛嫌いする旅人が
なぜ水を汲んでくれと言うんですか

貴方の井戸の水は飲んでも飲んでも
渇きを覚えます
私は乾かない永遠の水を貴方に与えましょうそれは使っても浪費しても減らない
幻夢のようなお金です
                      31,10,24
  32 車窓の父

幼子を人より高く上げ見送る
帰陣なさばこれより高く


  33 焦げた汽車

汽車は焦げていたが
将校の紙牌はやけに白い

 34 東三省

私達はボランテアです

遼寧省を踏みにじった反省を代弁します
吉林省を侵略した反省を代弁します
黒竜江省の家々に火を付け強盗したことを
お詫びします

人口の8%1億人を超える人々に
お詫び行脚をし謝罪の旅をしています
                            31,10,26
  35 鹿柴

我が国の兵は
瀋陽の街に
猪のような敵が
鹿を連れてくる
逆茂木で塞いでくれ
そんな伝言を残す

  36 中原に鹿を逐う

帝位を得たいが為にみなが
混乱に巻き込まれる
覇権とは魏徴の述懐

 37 張学良の部下だ

家を調べる
と言って馬車を止めた
しかし
兵は一人だった

  38 たっき貧しく

生活が困窮して
節約も減らす者もないです
大臣殿

 39 織物

緊縮は我が家にもやってきた
あれほど注文があったのに
軍服の縫製のミシンが
ピタリと止まる

  40 母は野良すも

節約を信じる母は
緊縮、もう一つ緊縮という
ラジオを消した

  41 檄文役場に届く

足袋は破れたものを履け
嫁入り道具のミシンは控えよ
心室の夫婦の部屋に明かりはいらぬ

 42 倹約の御触書

校長の演説より
古びた服が心に響く

 43 カフェの女給の歌

切りつめよ
節約せよ
コーヒー飲まなくても死にはせぬ

  44 政治家は恥ぢぬ、新聞は用なき

こんなにも人に必要な物と者はないはずのものがみな不用
                          31,10,27
  45 無産党候補

無産党というビラが初めて現れた
昭和3年のこと
既成政党に清き1票もない
政治家は恥じない

投票の日が近づくと
新聞記事を覆い尽くし
演説会場は15日間
満員御礼の立て札があった

 46 青空に私は嘆く

殆どの人民は多くの財産も
富も持たない無産階級無産者に過ぎない
しかし
無産党は選挙に勝てぬ

どうしたことだ
何かが世の中の仕組みを操作している

 47 安部先生落選せり

社会民衆党
労農党
全国労農大衆党
菊地に大山

政敵政友会、民政党と対決するも
流行歌のように後に忘れる

 48 浜口首相の理想

民衆の暮らしはまだ半ば

 49 新しいお父さんを探しに行きます

母はこう書き置きし
見張りの付いている
選挙違反の父の家を出た

 50 婦人解放

牢獄、奴隷、お手伝いさん
そんな時代の女性は
日本の南北戦争です
  
                         31,10,28
  51 金持ちのお嬢さんから抜けだそう

たいそう大金持ちよ
肥料を作ったり
石炭を採掘したり
官営の製糸工場を政府から払い下げられたり

金のなる木も植えているそうよ
私達は平民の女です
妬みから一歩でも抜け出そうではありませんか

 52 卑しき事

婦人解放を叫ぶ雑誌は
みな卑しい事柄を書いています

本当の自己を知れ
女が握り拳を上げ
吹雪の日にデモ行進したり

  53 不況のどん底

物事がせき止められたように
行き詰まっている
高を括世の権勢を
思うがままに振る舞う

  54 無数の人の餓え

青空という良い天気なれど
喘ぎ息をし毎日暮らす
内閣は代われ
世も変われ
                          31,10,29
  55 資本主義を怪しむ

いつ頃か知らないが
世の仕組みは悪いのか

今日も職を変えてきた
朝出掛けると
夕方には別の仕事になっている

心配している母に
このことを告げるのは
辛い

  56 勲章は5万円、10万円とも

日雇いの賃金は1円60銭
命の勲章の値段なのか

 57 ロンドンの軍縮会議

軍縮と言われても
私の生業は
軍艦を造る

 58 切腹

軍縮に義憤電車で死ぬ
              
 59 撃たれたる

首相は
憲兵が駆けつけ
撃たれた

 60 文化人とツェッペリン伯号         
ドイツの巨大飛行船は
全長236メートル

茨城県阿見町霞ヶ浦沿岸に着陸した

文化人は  
我も見た お前も見た

その夜は
一つの枕で寝た
                           
  61 半田さんの驚き

光りのどけき春は過ぎた
日差し強き晩夏の8月19日に
ツェッペリン伯号世界一周に
狂喜する半田さんがいたのです
                            31,10,30
  62 人類の長い間の夢

広告塔のビルディングの後ろの
煤煙が煙る空に巨大飛行船が現れた

銀の塊のような鈍い光りが
一点遠く見える

あるものは屋根に登り
ある人は木に登る
何もなければ肩車
工事用の脚立まで登場した

  63 ゆたけき秋空

ツェッペリン伯号は
シベリアのお客さんです
荒野を飛んで
長旅は相当なもんでしょう
私も農作業の手を休め
鍬を頭上に振って
歓迎の挨拶をしているところです

 64 ツェッペリン伯号が目の前に

私の前にある飛行船は
ゲーテ、シラーの文学よりすごい
音楽にクラシックに詳しかった
モーツアルトとバッハを
組み合わせたよりすごい
と言おう                 

 65 ツェッペリン伯号フィーバーの余波、   飛行体験に狂喜する文化人

日本の山脈はノコギリのようにデコボコしていた
木を切るノコギリを日本の祖先はちゃんと用意していた

あの雪崩は何だ
象か猪の冷えた肉の色をしている

丹沢連峰がやけに小さい
小石の山か、落ち葉の山か                      
飛行機という世にも不思議な乗り物に乗ると今までの悪行を告白し
懺悔の気持ちで全財産を献金したくなる
何故だろう、

目の前に赤い教会の帽子がない
青い空と白い雲に乗った気分だ
オーイ、献金しても好いかー
雲の詩人は呼びかけた
 
 66 飛行初体験

飛行機のエンジンよあれが
淀橋浄水場
プラペラよ
あれが歌舞伎町の風林火山
主翼
あれが巣鴨刑務所だ

空から下を見ると
今更歴史の波と
空気の津波も押し寄せてくる

上舵だ
逆さまだ
逆上だ
機内では
裏切られたような悲鳴がしました
                            31,10,31
  67 おびおただしく笑う光り

草原には草ばかり
他に何もない
ヒデとロザンナ
不思議に思う

何も好いことがないのに
草はくすくす
何が可笑しくて
そよぐのやら

  68 甍すれすれ

甍には鯉のぼりが泳いでいる
飛行機が頻繁に
上空に来て
轟音を立て
時にはもううるさくて
何か天地に
異変が起きたのかと思う
その不安は的中し
我が家の甍は
すれすれに飛んできた飛行機の突風のため
瓦がガラガラ落ちてきた

  69 命あるのみ

爆音が空に響き
機内のエンジンは
轟音をたてる
飛行ベルトを締め懸命に祈る
真名下の深田よ
輝く月のようだ
雲仙岳
今日は小学生になった
山には紙切れのように
鋏が入っている
地上の褐色の土よ
大地の胡麻を蒔き散らしたような綠よ
神社に祈る
命あらば
無事着陸なさば

  70 遠 足

山を越えよう
軍事訓練のように
川を渡ろう
大河に住む魚のように

赤い河の谷間にいこう
黄金を求めて
インディアンの女性を探そう

生駒超え
大和国原の眼下に着陸しよう
遠足は恋の終着駅に着く
                          31,11,2
  71 啄木は今はあらず

病没とは言え突然の訃報でした
長く生きれば
文学に巨大な足跡も残るが
貴方のような
短歌の短い詩形は
いつまで人の記憶に残るでしょう

岩手山が見ている
なんとご報告すればいいのか

 72 思えば、芥川を

文明も茂吉も長寿で
大家と呼ばれ
名声を得た

と言うのは
すがすがしく君死にけり
とか
眠り薬飲みて友は
餓鬼になったとか
アダムとエバのように
智恵の美を食べた死とか

親友知人に
悲しみがないのは
何故だろう
                             
  73 不景気はどこから

わが家の梨は一個も売れない
工場では糸を括らず火災になったので
その保険金で急場を凌いでいる

豆腐が何故売れないんだ
豆腐屋が嘆く
町の有名な老舗も
バタバタ倒れた

子供らにせめて
赤銭を集めて
売れ残りの
西瓜一切れ買って帰る

  74 金の貰えぬイヤな日

朝から集金しているが
金のある人がいない
掛け売りが如何にダメな商法か
思い知る
街灯の火も消えた
不況対策に打つ手なし
ブラジルでもコーヒー園を
閉鎖して
ネギ一本を買って帰るそうだ

  75 十銭で三本の秋刀魚

お米がなくなったと妻が言う
五銭で大根買ったら
もう銭はない

米は十キロ、1円60銭
鮭一切れ、五銭
一ヶ月一世帯の支出、九十円
一ヶ月一世帯の収入、百五円

なでしこと言う煙草を
三十二銭で買って来て父が吸う
                           31,11,3
  76 円本ブーム

さあ、これが噂の知識人が
財産をはたいてでも買いたい
一冊一円の本だ

現代日本文学全集
現代法学全集
経済学全集
と数も多い

大衆月刊誌
中央公論、改造
更にキング,富士
聞いたことのある
文藝春秋も出てきた

円本はいいが
月々の支払いに苦しむ
庶民もいた


  77  暮らしに苦しみ

暮らしに苦しみ
大きな池の鯉を数匹盗んできた


アララギの伊藤さんの話しだ

  78 無心に来た老婆

お金はないので
米櫃の底からかき集めた
米をあげた

老婆の話では一家で
豆腐のかすを食卓で囲み食べている

すると丁度そこに借金取りが来て
白飯を食えるくらいなら
借金返せと怒鳴って言った

我が家では一年以上も
白飯を食っていないんだ
  
 79 歩道の上に座る人

歩道の上に座る人の膝は寒く
やるせない出来事に日は暮れていく
                         
  80 あてのない金策

親類縁者のみなに
借金はお断りだ
もう来るな
断られた
やけに心にしみる
青空の下を帰った

金を得ようと
質草になる物を選んだが
たいした物が残っていない
旧い背広が預けられたら
子どもに煮魚を食わせることも出来よう
しかし
明るいめどは立たない

  81 求職に出た友

今晩は
夜も更けているのに
したたか酒を飲んできました

酒は悩みも苦しみも忘れさせてくれる
阿片です

稼ぎを求め遠くまで行って帰って来た
あの町には仕事がなかった
あの町の隣の町にも
仕事はなかった

仕事を用意するのが
帝国主義政府の役目じゃないか
戦争と不況しか見えない世に
ガッカリだ

デパートの女子社員も
競馬の騎手も
競輪の選手も
みなが仕事を失った
                            31,11,4
  82 職なき憤り

五尺五寸の身を引きづり
どぶ板に霰が跳ねるのを見ている

俸給もボーナスも
一割も減った
官史減俸と報ずる

四ヶ月も給料払えぬ
工場もある

賃金値下げに
織工がうなじを垂れ黙す

妙な村民大会だった
教員の俸給三割下げよ
子どもを休学させる
その見返りに
俸給の一部を寄付しろ

新しいカンカン帽子を買って来たが
失業者のわたしに似合わない

廃兵が物売りに来た
それも、勲章と証明書を見せつつ
  
  83 亀甲万の醤油

美味しい醤油が
人の血潮に見える
其れも労働争議で煮えたぎった
沸騰する

ビラを配っている女工
引きずり出す警官がいた

  84 大胆に細心に

争議応援ビラがこの村にもはっている
きっと我等の応援だろう

しかし争議本部に
布団もなく
板の間に雑魚寝が続く

  85 浚渫船

川底に砂を集めて
堆積物も取り除く
絵のような煙突からは
モウモウと黒煙が吹き出す
廻りの護岸は油の匂いで
吐きそうだ
                          31,11,5
  86 水仕め

今年も冬が来た
とうとうゴム手袋を
買えそうもない

今朝初めて鶏が卵を産んだ
夫のため記念に残しとこう

私は足袋を履き替えた
黒い水屋の板の間に
不釣り合いぐらい眩しい、白い

昨日は買い物で
キツネに似た人を見た
ガラスに映る私も
キツネの顔立ちになっていた
気のせいだ
湯気立つ御飯をみれば
幸せと思う

おかずの鰯は脂たぎって
とても美しくはない

私達は新婚中
田舎の家父長的家族関係から逃れた
夫婦中心の生活に
慣れていない家事、
家計の負担がのしかかる

お隣の夕飯は
柚子酢を使った鍋物らしい
美味しい香りが
我が家の納豆御飯と
塩辛の上に乗る

昨日はコロッケ講習会に出た
カツレツの調理法も学んできた

しかし
食材を買うお金がない
そんな物贅沢だ
と 
夫は言うかもしれないので
せめて目刺しで我慢する
           
 87 鉞南瓜

固い、固い
冬至に食べれば
風邪薬はいらない

  88 蕨汁

蕨に鰊を入れて美味しく作ったつもりだが
意外なことに
妻も子も
嬉しそうな顔をしなかった

牛肉とか地鶏の肉
北海道の鮭でないと
ダメなのか
                        31,11,6
  89 鰻老人

世間は食糧不足で
大騒ぎしているのに
我が机の上には
夕まぐれの鰻が
ゴッソリ皿にのっている

これだから文化人はやめられない
世間の話しだと
山歯朶を酒の肴にする
そんな話も聞いた

我が仲間も
この世の貧困の波を
諸に受け
貧困の故栄養失調死で
人生を終えた者は数多いる

精神科医の我が診療所には
理解不能患者
治療不能患者
と新種の精神疾患が蔓延している

治療は簡単質素
薬はいらないし
入院もさらさらない

患者の家族に
病人が日常注意すべき事を
説明し其れで終わりだ

つまり
対話診療で儲かる
こうしていると

ドイツにもイギリス、アメリカと
世界をかける精神科医
呼ばれるのも
日は近いだろう
                      
  90 普請場

道路工事はとても重労働だ
工事をしている人が交代交代やってきては
がぶがぶ水を飲みに来る

この井戸は古く小さく
わずかばかりの米をとぎに来た人は
立ち往生する始末

井戸と銭湯は江戸時代は社交場だった
いまは貧しさの象徴になった

  91 大掃除の検疫役人

姉が言っていた
昨日は千駄ヶ谷に賃貸物件を見に行った

生憎予算も希望する家も見つからず
夜になった

秋虫が鳴く道を登ったり
少し降りたり曲がったりして帰って来た

私は妹だが今春家を買った
今年の秋は晴れて
検疫役人が検査に来て
衛生状態を見に来る

 92 ガスタンクの下の長屋

長屋にガスタンクは支えられない
ガスタンクの8本の支柱が命綱

ガス漏れがあったら爆死する
支柱が腐ったら、下敷きぺちゃんこだ

そんな長屋に
慎ましく灯が灯るわけないだろう

 93 東京の飯屋

荒々しく帽子を被り
飯を食う

見る人がみな他人だ
都会とは他人と顔を合わせ
無言でその場を去る暮らしだ

  94 艶歌師はバイオリンを持ってくる

売れない野菜くずのような歌を
バイオリンという楽器に絡ませて
夜な夜なやって来る

バイオリンはすすり泣き
艶歌師は絶叫マシン

板新町は騒音公害発祥の地になった

  95 私の青空

私達は小市民よ
今日は珍しい豆形写真機の映画を見た

せまいながらもたのしいわがや
本当に幸せは時代という
鳥とともにやって来る

 96 午砲
                           
どんと正午の砲が鳴る
その一台は
大阪城のどんと呼ばれた
午砲台から煙が上がる
その前に朝鮮牛が甚く愕いている
                            
 97  有馬入湯始                              
神代の昔
二人の命は
傷ついた羽を温泉で休めている
三羽の烏を見た

傷口が治ったのを見て
此所は名湯だ、
大発見だ
と喜んで皆に伝えた
                          

その後
欽明天皇とか孝徳天皇
幸行するようになった
 
  98  背戸の粟

自然のままの粟も好いが
一度は粟餅を食べたい

家に来る雀もそう言って
チュンコン チュンコンと
鳴いているみたいよ
                          31,11,7
  99 割引電車

交通費を抑えたい
少しでも

そう乗り競う労働者に
いざこざが始まる

薄暗い路をトボトボ行く
家の窓からコソコソ言う
あれは割引電車が目当てだ
くすくす笑い声が漏れてくる

電車のポールから
青い火花が見える
電流は早起きなのか

  100 永大橋

永大橋を渡る頃
隅田川に窓明かりが映る

三宅坂も通る
渋谷の青山はどこか
 
  101 貴婦人の家に虱を落とした

よりによって
あのような豪華な
貴婦人の住む家に
私の頭の虱を落としてしまう

もうアルバイトに行く気力もない
貧しいと
余計な虫と一緒に
かき集められる

  102 盆景屋

盆景屋は朝から忙しい
お盆の上にのっている庭園

砂や石、苔
そして
土や枯れない自然の物を
細かく芸術的に配置し楽しむ

103 私はその二階で受験勉強をしていた

すると、
大きな声がした
そんな本
ステッチマイナ
腐る物並べてどうする

エジプトのピラミットや
アフガニスタンのカブール、
バーミヤン渓谷の
石窟と石仏を
見たことあるか

紙に書いた物は
五〇年も残らんが
石は
5千年の風雨に耐える
                        31,11,8
  104 富士・つばめ・桜


隼人

大和

空を飛んだり
山の名前だったり
桜も好いな
 
信越線の碓氷峠は難所、
難所と雀の声援を受けた

 105 風鈴

ちろちろ
チリリンチリリン
彼岸花を背負って
売り歩いている

そのうち
玄米パン屋も着いてきた

 106 太鼓を叩き薬を売る女

誰も来ず

飴売りの鉦にはあんなに
人が来るのに
                          31,11,8
 107 露店

露店リサイクルショップの
申請受付中です
許可の下りた人は六八五〇人余り
特定され許可された場所は
現在87箇所です
 
ばなな こま  炊事道具
雑巾 おもちゃ 手品
迷い子札 ベルト
大工の工事用道具
パンツ下着 新古書
線香仏壇石碑
枕布団花柄付き(未亡人使用)
手相人相占い
就職相談
消防訓練サポート相談
夜景ガードマン募集中

等です

  108 マグニチュード7.4

関東大震災の再来か
伊豆の人々は思った

人々はまだ夜明けぬ中に
互いに呼びかけた

炭の俵も寝具として使う
今日からは
        
 109 御真影は無事か

小学校の奉安殿に
小学校の校長がいた

やれやれ御真影は無事か
もし焼けていたら
隣町の校長のように
命を絶たねばならなかったろう

 110 八十隈湧く

あの時は
方々の池が
蒸気をたてていた
何事かと思い
手を入れると
お湯になっていた
火災の熱で
地面の土が熱せられた
                          31,11,9
 111 説教強盗の評判

説教強盗ってどんな顔しているの
今一度似顔絵見せて

年老いた母が言う

そんな物見てどうするんですか
家にお金になるような物はないし 
度々の震災で長屋暮らし
持って行く物なんかないんじゃない

それがね
その説教とかが気に掛かるんだ

それがこんな話しもあるけど

〃花も草ものどが渇いたら
誰か水を呉れてやるんだ

川は山に向かって
君は楽で好いな
僕は毎日大量の水を下流まで運ぶ
重労働だよ

何いってんだ
僕は毎日モグラやミミズの
大量のトイレを掃除したり
落ちてくる木の葉を
箒で集めているんだ〃

こんな物語説教をした後

強盗は命は取らない
それが説教強盗の仁義だ

そう言って堂々と
ありとあらゆる家財道具を
大きな風呂敷に入れる
こんな噂がある

  112 モダンガールを疎む

あんな豪邸が
モデルの生業で建つ

私はもう四〇年も社会に出て
働きづくめだ
それなのに家一軒どころか
長屋の六畳暮らしだ
この落差は誰がこしらえた

  113 信濃から出てきた私

銀座の女は
唇が赤い
銀座を歩く女はどこか違う
デパートの開店時間に
一時間もあるのに
あんなライオンの前に並んでワイワイして
何を買うんだろう
夜になると
見たこともない
ガスが灯る
自動車の排ガスは銀座のシンボルと言うが
咽せて顔に煤が着いている
             31,11,10
  114 のたうっている都会の心臓

心臓病
脳梗塞
風に腹痛頭痛と
何でも揃う百貨店病

金女事業就職と
平和な戦争のような忙しい

夜カフェ
私の売るお酒を
あの人はどんな顔して
飲むことでしょう

昨日は米兵が
店を覗いていた

私は装女だから
外国人には水商売でも
好感が持てる
お酒を注ぐのには慣れている
 
  115 ダンスホール

一房の葡萄が私の目の前を過ぎる
早く声を掛けて貰い
踊りましょうと
ダンスの衣装がふさふさ揺れ
中に収まった
豊かな夜陰の襞のように艶めかしい

お酒の匂いと煙草の煙が
未経験の私には目新しい出来事
主催者がパートナーを
紹介してくれた

黒と紺の縦縞模様の背広を着ていた
髪型はオールバック
銀色に輝く眼鏡をして
いかにも悪者と言った印象だ

この方は全日本チャンピョンでしたよ
十年前のことですが

今の職業を少し紹介して好いですか
男は無言で頷く

阿片マリファナのコレクターを長じて
チョットだけですが
対面販売をしています
相手は財界人や政府の閣僚です
もちろん秘密です

肉感の重さにダンスホールの木の床が
晴れがましく光る夜だった

  116 市川團十郎銅像

春の雨の中
女が銅像に近寄ると足袋を脱いだ

そして銅像の胸など
顔も頭も拭い始めた

浅草公園
十二階の凌雲閣が聳える

ここら辺は大道芸人が集い
漫才や獅子舞をする
                            31,11,11
 117 トーキー

浅草の帰り
グレタ・カルボをみました

 118 私はくだらない女

私のために命捧げてくれる男なんかいるとすれば
お釈迦様ぐらいかしら

私は料理ができない
結婚しない理由の一つ

私は正直になれないのよ
野田のバカらしさがないのよ

 119 計画は掟  

習慣法律国家社会アメリ
太陽月

 120 空気水ランチ

掟なんです みんな
八〇年間も公の場に
出なかった私の後悔は
夫婦となり手をつなぎ
街に出かけることができなかったことです

  121 実況放送をすると客足が減る

ラジオの実況放送は社運の危機だ
野球も相撲も
見るお客が激減する
 
映画もトーキーになったら
弁士や伴奏楽士が大量失業した
                         31,11,12
  122 蓄音機のうるさき歌

娘も息子も
小学校から帰ると
君恋し,君は誰よりも恋し
と 大人の歌を聴いている

暫くやむと
浅草行進曲をカナキリ声で唄っている

レコードという盤の
すり切れる音が
キイキイと鳴る

なぜか東京行進曲もある
前へ揃へ
富国強兵しろという

  123 すぽーつの有様

ゴルフとか
中堅手とか
聞き慣れないこと

私の散歩の草地はゴルフ場という物になり
けっして
自由には出入りできなくなった
                          31,11,13
  124 裸で草むらに飛び込む

嬉しいことがあると
壁に掛けていた世界地図に
大洋の海原が現れ
地球全体の空気も
一飲みできるお酒のようだ

青い草に
逆立ちしてみれば
私は草で草は人になっている

私の庭に
駱駝の群れがやってきて言う

エジプトとかサハラとか
月の沙漠に
金鉱床を探しましょう
           
天使が着いています
御祝いなんですね
飛んでいます

此所は疲れ果てた男ばかりです
ゴーガンはタヒチ島に隠棲した

彼も先人の真似して旅をする

 125 無産運動指三本

ロシヤ革命だ
日本の野郎ともお別れだ
金持ち資産家欲張り社長サヨナラ

その通り
大きな声の主の男に指三本
 
 126 酔いしれてマルクスを説く

交番のおまわりさんにマルクスを説く男がいて
相当酔いが回り
おもわりさんも頷くだけ

昨夜は父のところに
高等学校の生徒が来た
マルキシジム論争になった
伯父上はしみじみとマルクスを説く

揺れる私線の列車でマルクスを読む女学生がいた
風呂敷包みからこぼれた本はマルクスだった
急ぎ駆け寄り
落ちた本を拾ってあげる

すると
俺は振られた
恋の無産者だ

中原中也ランボー帽子を見てみよ
肖像画は明らかに言っている
俺は振られた
だからマルクスなんだ

  127 マルクスの研究

研究にも没頭もしたが
幸いにも資産家だ

どうせ故郷に戻れば
マルクスもプレハーノフも
役にタタン
鉞、鍬、鋤だけが
人生と暮らしの道具

 128 小作不能同盟

小作人は地主に小作料を払うな
土地は私有財産ではない
みんなの物だ
レーニンもそう言っている

 129 マルクスをやる

プチブルと呼ばれん
もう貧乏ともお別れだ
一〇〇〇〇光年後に
星も消えている

 130 誰もがこの日を待っていた

烈風を突いて行かん
若き戦士は労働者
自由の歌声巷間に響く
樹齢一千年の樹の如く
我等の肩が円陣を組み聳える

のどの赤いツバメが飛翔している
風呂屋の煤煙も今日は真っ赤だ

黒服は警官だ
市川稲毛神社
一八〇〇人の労働者が
竹槍をもって武装蜂起した

 131 メーデー女工

遅れじと裾をまくり上げ
懸命について行く
赤子を背中に縛り
赤い旗について行く

 132 事務室を秘かに抜け出す

メーデーの行列におもう
心なしか

共産党事件に載った人は
無職が多い

学校をやめて
共産党員になった人もいる
うら若い女性も入党している

  133 とうとう裏切ったのか

昨日まで同士だったが
裏切られて
印刷機の回転する様は
むなしいルーラ

  134 大学の職を追われる

第二貧乏物語は
究極の貧乏からは始まる
左派傾向の妹は
とかく父母に
逆らうようになった
                          31,1114
 135 少女が買う雑誌戦旗

赤の虱にかぶれたのか
下宿屋の娘は
生き生きしてきた

あんなに温和しく
口数も少ない子が
どうしたことか

持てない少年が
善の研究出家とその弟子
小脇に抱え
文芸戦線を広げてみせる 
本がファッションになった瞬間です

 136 うつし身の心

心ならずも共産主義入門ABCを読む

破壊、佐傾向は
資産のある友が最も恐れたこと

  137 奢れり群衆

財産がないぞ
大声で叫ぶ
仕事がないのは
政府東京の怠慢だ
   
そう簡単に獄中で死なんぞ
咳嗽は応援歌よ

 138 山本さんの死

神田の旅館で右翼に刺殺された

赤旗にくるまった同士に
学生は帽子を脱いで
哀悼した
                      
 139 プロレタリア短歌は何を残す

未来を鏡に顔を写すように出来たら
人の不幸も闘争も減る

醜くひん曲がった指を見よ
十七年の労働の賜だ 

相棒の朝鮮人
歯を食いしばり電柱を担いでいる

 140 今日の相場二円

四十貫の繭の値、
ここっれは、なんでしょう

出産の為里帰りした妻は
繭の安さにかこち泣きした
                             31,11,15
  141 とつくにのえみし

あめりかじんはえみしだ
ふらんすじんもえみしだ
おらんだじんもそうだ
いぎりす、どいつ、ろしあもそうだ

  142 五作の娘も売られて行くか

生糸暴落
繭安価
相場は安く
肥料も買えない

秋も寂しく暮れて行く中
娘が今日も売られていく

たった一年の凶作で
十九年育てた娘を売りに出した
                                             
 143 医者が大声を出す

大声の主は医者だった
裸人を前にして
乙種合格
甲種合格など

入営を見送る人が駅に集う
兵隊は一つの能力
馬鹿でいい
馬鹿声なら出るだろう
                          
  144 雨乞い

樋石
水嵩
水口
村会会議の中心議題は雨乞いだった
石狩平野に願いを込めた
天塩山地
どうぞ雨を降らして下さい
祈祷をした

すると
炎が見え煙が立ち上がった
落雷らしい

流血の争いに至らず
旱は終わった

 145 農会費を取る男
 
米がこんなに安いのに
会費とは何だ

父が大きく怒鳴る
豊作を見越して
米の相場は下がる

米をみな安く値切られて
妻にさえ売値を言えなかった
                           
  146 盗電探査人

蚕養する人はやせて細くなる
春繭の糸を取る人は足が腫れ食卓につけない
定額燈方式に
農村は盗電をしていた
                           
 147 喜田さんの筵

私が綯った縄で                
今日は一日
妻と筵を織り
暗い納屋で過ごしました
                            31,11,15
  148 娘は容易く嫁ぐ    

誰の新妻なのか
歯を真っ黒に染めて
重い炭俵を背負い
坂道を歯を食いしばり登りだした

誰の新妻なのか
清水に胡瓜を入れて
冷やしている
味噌を添えて昼餉をしている

誰の人妻なのか
臼を引いている
芒埃がいちめんに立ち
髪に雪のように
粉になり舞い降りている
                             31。11,17,
  149 粗朶を転がす            

昨年父が苦労して                  
雑木林を伐採した
それらを山の斜面から
転がすと ザーザーと
落ちた 粗朶の束は
その長さ
二百メートルもあろう

  150 馬棚戸

馬はモモコという
その前はサクラと言った

亡父の馬はタロスケと言った

テンコロ、ブンブンとかわいがった
猫や文鳥もいた
                            31,11,17 

  151 目をつむる馬

疲れたのだろう
一日中代掻きして
草を食む力さえない

馬も哀れ
我も哀れ

  152 雌の牛は仔牛を連れて峠を登る

仔牛も母と一緒に峠を登っている
親に縋り乳を飲もうとしている
ときどき長端綱をゆるめると
草を喰う

 153 鶏は柵飼いせよ

稲の種まきの季節は
御触れが来て

鶏は柵に入れよ
農作物を荒らす

  154 食い代を求めてやって来た

一羽の牡鶏が
鳥屋についた

それから土間に来て
納屋の俵に止まり遊んでいる

 155 霧にむせぶ真夜中に

鍬、鋤、鉈を抱え
簑と簑笠を身に纏う

明け方の田の用水路に
泥鰌が遊んでいた
妻はそれを見て
大喜びしていた

 156 草を刈る山の乙女

草刈場に来ていた人は
乙女だった
露に濡れていた

連れてきた馬の背に草を束ねると
手綱を引いて馬と去って行った
すると馬の草の上で
朝のコオロギが沢山いて鳴いていた
                          31,11,18
  157 採炭囚徒

足の鎖が解かれた
昨日と同じだが
入坑の時のみの自由は天国も地獄もある

炭坑医の私は毎日
瓦斯の毒気にて死せり
と書く
これが日課となる

 158 百尋の抗

厩だった
人が馬と化し地中に入っていた

 159 職工施療室

黒々と人も
お前も横たわる
職工施療室

工場法はざる法で
資本家側は
網の目のように
適用除外規定を作った

喘息がはやると
魚は一向生まれなくなった

阿賀野川下流メチル水銀汚染
神通川下流イタイイタイ病カドミウム水質汚濁
四日市市大気汚染喘息
八代沿岸メチル水銀

公害被害の提訴はみな
1967年代の後半だった

  160 巡査は宗旨を問う

巡査をして三年になるが
世の人の評判は悪く
何かのけ者扱いにされている

 161 花柳病患者

来たか
今日も
性病をもらたった男女が

誰からお土産を頂きましたか
聞くと

愛しいお兄さんから
愛しいお姉さんから
待屋の別室にて
                        
  162 生徒の鉛筆の筆先は錐のようだった

出欠をつけていた
生徒の頭を殴った事がある

その生徒の名を呼んだ
槍の穂先のような鉛筆を転がし
机に肱を建て顎で私を見た
                           31,11,19
  163 風除室

去りがたいな
こんなに美味しい焼き鳥があって
コンビニと言う店か

近くて早くて便利で
決して値段も高くない

これは玄関フードというのか
寒さや暑さを緩和してくれる

漫画を立ち読みしても
店員は丁寧に雑誌を並べ笑顔で整頓している

コンビニはイヤなことを思い起こさせない
暮らしのパートナーだ

  164 償いの豚飼い

我が県は豚を年間65万5千頭殺している
すまん
千葉県知事は頭を下げた

我が県は肉牛を年間53万9千頭殺している
すまん
北海道知事は頭を下げた

我が県は鶏を年間1億2千万羽殺している
すまん
熊本県知事は頭を下げた

広島で十四万人の県民を原子爆弾で殺した
長崎で七万人の県民を原子爆弾で殺した

アメリカの大統領は
すまん、とは口が裂けても言わなかった

爆弾投下当日は京扇子で蒸し暑い長い一日を過ごしていたと言うのだが、

それがどうしたの、
その一言だけだった

  165 海真平ら

萩を刈るように
朝鮮国も刈る
野望に火が付いた

西鄕と板垣は
勝利の前祝いに
美酒に酔った

この分では満州中国全土も
射程距離だ

海は波風なく
平らな方が趣きがある
                        31,11,21
 166 ゴクリと万歳を飲み込む

奉公袋に爪も入れた
遺髪も入れた
僕の命は
こんな小さな袋に
なっちまう
                          31,11,27
  167 この群衆は狂える

兵隊を見かけると
万歳、そして万歳

歓声の中に死に行く人が見えてくる
            
 168 朝餉に高梁を入れる

モロコシは玄米か陸稲

榴弾で体から腸が飛び出た

小麦大麦稲玉蜀黍は
平和な時代を望む

 169 支那兵は手に土を握る

野の花が揺れた
砂漠の砂が舞い上がった

大木が生木のまま倒れた

頬に弾が当たった
兵が死んでいた

 170 便衣隊の掃討

敵の隠れ家は焼かれ
赤い炎と黒煙が上がった

 171 匪朱房の少年

槍を固く握っていたが
俯せに倒れたままだった
                          31,11,28
  172 鶴見埋め立て地

一隅残らず埋められた
機械力専制造成行為が
横須賀にも飛び火して
戦争機械化を準備している

無産派の理論が
この国の流行になり
恐怖を感ずる

 173 美人座

踊り女も
見物人も
相聞歌を歌い
お酒に酔っている

カジノフォリーには
聖家族、堀辰雄がいた

腰をくねらして
尻を振っている
か細いものに聖が潜む

春野芳子は
聖家族第一号の
栄冠を獲得

  174 善知鳥の姓

私の村には
善知鳥の名字が
一般的です

これ以外はよその方です

  175 マレーネ・ディートリヒの歌を聴     いた

嘆きの天使
3百万ドルの脚線美
頽廃の
ハスキーブォイス
全てが嘆きの祖国に直面する
                            31,12,2
  176 浅草の木馬館

ジンタとは
なんだと思う間もなく
小編成の音楽楽団が吹奏楽
悲しく響かせる

屋根に落ちる雨の歌の響きとも
トコトコ、パツンポンと
悲しく響くのは
何故だろう

   177 トーキーを見る

人が動いている
本物そっくりの声も
騒がしい世の中の慌ただしい
雑音も聞こえてくる

トーキーとは
アラジンと魔法のランプの
主人公アラジンにしてくれる

君もアラジン
明日もアラジン
アラジンの熱狂に夜も更けた

  178 ショート三原

1ミリの隙もない
3日間連投伊達
熱戦20回の
中京は明石中学に勝ったが
記憶から去り
記録に残る

  179 馬 橇

氷を積んだ馬橇が
急な坂道を上る
氷は光を発していたが
馬の苦労を忘れていた

ロッコを引く
馬を見た
貯炭場の鉄路は
赤く錆びていたが
馬の苦労を忘れていた

木場に木材船が
次々と橋の下をくぐる
木の雄渾で見事なことを
言ったが
馬の労苦を忘れていた
                        31,12,3
  180 鮟鱇ら

鮟鱇、こっちの荷を運べ

ふらてん、早く荷を船に
持って行け

風太郎、プウタロウ
港湾の土を掘れ

  181 昭和の日と人

僧と
娼婦と
女と
庫裏に集まった

僧はいった

僧の私はなすべき事をなした
後は食事を楽しむ
お経は後だ
後はごろ寝、逸楽

娼婦は朝日に顔が輝く
今日の仕事は辛かった
あとはチュウハイあおるだけ
少ない身銭で世に憚る
日影は彼女の友達

女は言った
不公平な世の中よ 私は
昭和枯れススキ
人類の枯れススキ
                        31,12,4
  182 四角なる壁

プロレタリア演劇は
貧しい人々の糧だc
生きがいだ

童話だが(太陽と花園)と
出ることが出来ない壁は
私の記念となる
                         
 183 真実に飢えた心に

人の真実とは
具体的には人に
見えない物なのです

上野動物園多摩動物園
旭山動物園の動物案係、
園長も来て言うんです

しかし
動物は正直で真実で
まあ、本能とは
生きものにはよいはめられた
美しい首輪か指輪か
足枷が心地よいのです

此所に充足感に
心もてあましている人も
不足している人も
檻の中のこのライオンのように

オーオーと
物まね大会で
泣くが好いでしょう
                        
  184 酒田の長者没落

敵は長者なり
いそぎ酒田港へ
船を出し海路に兵を送れ

しかし槍と鎧を着けた
兵はいざ着くと愕く
塀は土を簡単に盛り上げ
忍び返しもない
庭には楠と松の木が
無造作に並んでいる

水を汲んで汗を流そうと
桶を下ろすと
コツーンと遠くから
こだまが帰って来た

せめてなりたや本間様に、
これは、偽りの伝承だった
                             31,12,5
  185 商いの多いとき
                      
自ずから話しも
笑い声に聞こえる

大方商いは
はかどらない

月給を取る人が
うらやましい

白い歩道に
埃が舞い上がる
その中で玩具を売る
                
物売りは谷間を越えて
我が家に来た
お茶をいっぱい下さい
遅い昼餉をしに来た

  186 若妻の甘藍

若妻に甘藍がよく似合う

すると

井伏鱒二は大きく溜息をつき

太宰君は詩人だな
長々と駄文も書くが
詩的なところもある

  187 寒 蕨

春の蕨が
冬の蕨に
進化した

猿から人が進化したように
化石は物語る
ダウイーン、そうですね

  188 還暦や

亜米利加のハワイ、
カルフォルニア
沢山旅行をしたが
裏日本には一度も行ったことが無い

 189 木に登る

鮮やかや、
鮮やかだ
アフリカの棗椰子の木は逞しい

雨も無い
湿度も無い
空は広いが
雲も無い

草一本の植物も無いが
若しかして
茎や種子が
何億年も石油と共に
砂漠の中に眠っている
魔性の大地かもしれぬ
                          31,12,7
  190 架線工夫に翼がある

たまげたよ
誰から貰ったのか翼を持って
高圧、低圧の電線を引いている

たまげたよ
人とは神の賜か
 
奇跡の乏しいこの夜明け
貧しくとも
神の恩寵が絶える事無し

 191 木イチゴ        

服の裾が長い
あれは聖女です

少女の瞳に血の色が
ふんわり架かるのです

少女の日焼けは
健康な血の色です

在りし日の記憶は
中原中也
忘れられない緑のくろ髪よ


 192 泥まみれ、無題 

蝉がいた
ミーミーン鳴いていたが
よく見ると
蝉の抜け殻だった

蛙がいた
確か
グーグーと
鳴いていたが
蛙の抜け殻のコピーだった

真冬に
着物の袖を濡らして泣いていた
春になると氷も溶けると言った
美しい人を思い出す

 193 今日は立春

もう貴方のことなどどうでもいいや
着物の袖はカラカラに乾ききった

そう言って
煙草を美味しそうに吸っている

幸せになったという彼女の福音を聞いた

                  (一歌一詩 終わり)