日は沈んでも朝日の昇るときはくる 7

 ㊴ その後の紫式部
 
 小学校の低学年の時黒板に書かれた算数の問題が分からなくて何時も二,三人残されていた。

  みんな問題を解いて出来た順に帰っているのにまた残されて何してんのかなと式部は良く思ったと言ってました。

その頃は勉強の出来ない全くの劣等生でしたね。

 それが小学生の高学年の五,六年生ではクラスの委員長だったり、とても勉強熱心な小学生に大変身していた。

 何が此所までこうさせた。蝶々か鬼ヤンマか蝉か鯉のぼりか、みなを驚かせた話しは有名でした
 
 貫之さん、式部の卒業後を御存知で無いでしょう。

彼女も数奇な運命に翻弄され捻られ踏み倒された人よ。

中学卒業後本道吟醸市の由利女子校に入学し卒業した人です。  

 ここから式部の忙しい日が続く。

神奈川県三浦三崎の市役所に就職し、夜は教員免許を取るため東京神田水道橋の日大に入学した。
 
 役所が閉まる五時に久里浜から横須賀線で大船まで行き、すぐ東海道線の快速電車〃すぐ着く象〃に乗り換え東京駅についた。

 そして快速のオレンジ色の俺俺電中央線に乗りお茶の水総武本線の各駅停車の黄色い電車〃もう少しだ象〃の水道橋で下車すると目の前に日大経済学部がある。

 距離は遠いようだが快速電車、特急電車に乗れば意外に早い。

ノンストップ

〃すぐ着く象〃

なんかとても便利だった。

俺俺電とかいい電なんて変わった名前は賑やかな都会に来たようで面白い。

  此の曲と 選んで決めた 
逞しい腕がを式部を導いていた。
 
 「ホテルカリフォルニア」のミュージックが遂に苦しそうな歌声で車内の式部の体を痺れさせる。 
 
 〃どうこれ、光源氏紫式部のサラダ記念日よ〃

 そう言う式部は幸せの絶頂、恋のハレルヤ真っ最中です。    

 それもそのはず、急がしい毎日が続いていたさなかのある日曜日、式部は名向崎の磯を眺めていた。

 山しか知らない式部に魚種のメジナ クロダイ ウミタナゴ メバル カサゴ カレイ、カワハギ イワシ アジ サバと市役所の同僚の会話が飛び交っていたのが耳から離れない。

休憩時間にもなるといつも磯釣りの話題でみんなが白熱の議論を交わし騒然としている。。
 

 あの磯が穴場だ、いや餌が違う、何年三浦三崎に住んでいるんだ、議論が熱を帯びてくる。

そんな様子はとても海と磯と魚が好きな昔から漁獲に恵まれた海辺の人という証だろう。

 ナメコと竹の子しか知らない山地育ちの式部には、海辺の町の人々が好奇心に満ち毎日が活気のある地域、海岸線の風景は別の世界に来たように思えた。
 
 今日も天気はいい。波も潮風もいい感じ。きっと磯釣りに出ているだろうあの人とも。

と見渡すと、いたいた今日もあの人がいた。

 私のメジナクロダイのようなもんよ。

一本釣りでゲットしよう。
 
 式部は道路を降りて岩肌に身を持たせながら恐る恐る男に近づく。

近寄るにつれ波のしぶきが頭の上から降ってくる。

 遠くで見た目以上に、波も荒く意外と高い。近づくと様子は一変する。

岩に波が砕ける震動がドーン、ドーンと重い響きとなり足と両手から伝わってくる。

 〃潮がぶつかるポイントを狙うんだ、潮目を狙うとメジナクロダイが釣れるだ〃
 
 あれれー、この人ったら私がもう後ろに来ているのに知らんぷりしている。

何やら忙しく一人で大声まで海に向かって出してる。
 
 すると男はとうとう釣り糸をたぐりながらゆっくりと式部の方に振り向きながら言った。
 
 おい其処のお嬢さん、黒潮にさらわれて漂流して、青い目の人形になってアメリカ人になりたいのか、それとも黒潮の流れに逆らって貧民国のフィリピン人のお嫁さんになりたいのか。

そんなとこにポツンといたりして、ジョン万次郎がさらうまえに高波にさらわれるとは奇怪な運命を待つ人よ。
 
 何よあんたー、よくぞ侮辱してくれたわね。

あんたこそ岩の足場を滑らせてボドンと海の中や。
 
 クロダイの夕飯のおかずになりたいのか。

それに何その顔、男前の後ろ髪と思いきや、目も顔もムツゴロウそっくりなんですね。

  そうとも鯥五郎守光源氏とは僕のこと。

まるで、女に振られて困っている?、そんな風に見えるって、その逆なんですよ。

ウンカの様に女が寄ってくる。

蚊取り線香でも焚いて静寂な時を楽しみたいものだ。
 
 何よ、その高慢ちきな態度、許しません。
 
 旅は道ずれ、釣りは二本づり、宮本武蔵の二刀流を越えた。

道元禅師の免許皆伝、心身脱落の境地今会得したり。
 
 何をいってんだか、高慢ちきに更に傲慢ち
き。 
 ははー、父が諫早の漁師だったんだよ。

諫早湾干拓で大浦漁民、有明海漁民は海を追われたんだ。千百四十七人が佐賀地裁に提訴、十次提訴で原告は計二千二十九人にもなった。

暗い話となった。

 かつて湾はタイラギ漁、アサリの養殖、車エビ漁、カニやシャコと水産資源の宝庫でした。

 干拓とは漁民を海から陸にぶん投げてしまう暴挙なのです。

そんな中で生まれた私をムツゴロウという可愛い名前にしたのです。
 
 まあ、そうとは知らず失礼しました。

私の知らないあなたのことも色々話してくれてありがとう。

 人には話せないこともたくさんあるのに初対面の人に包み隠さず境遇と心境を述べる事が出来る、そんなあなたは私にとてもいい人に見えます。

 あなたは私の遠い未来、あなたの背にする夕焼けは諫早の潮の匂いがします。
 
  そうですか、今日お会いした貴方こそ山の娘ロザリアのようです。

僕はもうロシア人になります。

ロシアから愛を込めて。
 
 〃男の夢さ、一本釣りは〃

 こう言いたいね。あなたは山の娘、山に登る月山の月を見て、太陽は丁岳の出羽山地に沈む。

 星も、棚引く雲も雨も風もみな山の幸が源です。これからは海の風、海から上り海に沈む夕日そして月と星を見ることでしょう。
 
 さ私達の舞台は整いました、今はその準備です。しかし楽しみは最後まで残すのがいい。

大物を釣り上げるのに何の苦労もしない、それは大物と言わ無い。

 大きいのがいいのではありません。

要は中身と外見の美しさです。黒鯛じゃ有るまいし簡単に釣れると思ったら大間違い。

心に美しさが無ければ夕日もマッチ棒の火もおなじようなものよ。

ありふれたムツゴロウで終わってはなりません。
 
 山育ちの山の娘は手厳しいね。

山への憧れが海への憧れに変わりますよう、海の神にお参りしなくてはいけないようだ。

 あの山もずるずると蕎麦を食べる音のように、海の中に入れと、念ずればそうなる。

心地いい風は森の新緑の五月風だけじゃ無い。

 潮風が若者の気持ちを熱くする。

貝が見ていようが魚が出てこようが、海は太古の人類の故郷。日本人の祖先は黒潮に乗ってきた海洋民族と言われています。

 あなたの古代遙かな祖先は樺太までマンモスを追ってきたのかもしれないな。

そうなれば狩猟民族と言うことか。

山の娘のいいところは心が螺旋状に曲がっていない、素朴な素麺か冷や麦の感触がする。

 綠走れり  夏料理 とは 

 ここにいる私の前のロザリアのこと。

まっすぐ伸びた竹のように清冽した美しさが静寂の中から伝わってくるようです。

燕子花をあしらったロングスカートに麦わら帽子は眩しい。

 あなたといると僕の心は折れない。

何でも楽しく受け止められる。

遠い昔に忘れたものに偶然巡り会えたようにもなります。
 
  私は曾てタロスケという愛犬を不慮の事故で亡くしました。

その悲しみは十三周忌をむかえる今年の十月九日も変わることがないでしょう。

以下の様に光源氏は昔を思い出し書き綴った。