犍陀多と言う猫の話し

☆1917年5月30日

            

(186)犍陀多と言う猫の話し

  おい、アキ、面白い話があるぞ。

 はいはい、今度は何でしょね。
耄碌しないでね、用事は何かしら。

  ははー、中村の上の部落、天神の者達
の話しだ。
  他特になし

☆1917年5月31日             

(187)犍陀多はどこから来たのだろうか

 中村の上の部落の天神の若い衆六人が、犍陀多と言う猫を飼ってる中村の下の部落の馬場の菅野作造の家を訪問したそうだ。
 他特になし

☆1917年6月1日              
 
  (188)それは名作蜘蛛の糸の主人公です

  
  犍陀多の話しだが面白いぞ。

 犍陀多って、あの隅田川灰汁之介の名作蜘蛛の糸の主人公かしら。
猫に犍陀多なんて名前を付けてしまって、もう面白そうな雰囲気がありますよ、どんなに悪い猫なんでしょうかしら。
三味線の皮にされたとか、そうしたら夜な夜な化け猫になって枕元に来たとか。 
  他特になし

☆1917年6月2日


(189)巣から落ちた雛を助けた
 
 そうおもうだろ、それが大違い。
五月の或日、作造の家の軒裏に雀が巣を作り育てていたが巣から雛が一羽落ちてしまった。それを見た作造の飼い猫の玉のテンコロは一目散に雛の所に走り、雛を咥えた。
 他特になし

☆1917年6月3日              
 
(190)猫の玉のテンコロが雀の雛を咥えている

  ああっーと、作造は声をあげた。
ああ雀の雛が飼い猫の玉のテンコロの朝食になってしまう。
自然の摂理・掟とは何と厳しい事よ。
こう言って大きな溜息をついた。
 他特になし

☆1917年6月4日             

(191)テンコロは雛を咥え酢に戻そうと懸命だ

  ところがどうしたことか、作造さんは意外な光景を目にした。
テンコロは雛を咥え板の外壁を上り始めた。
雀の雛の巣に行こうとしているが、天井には軒裏の板しかない。

 すると軒裏の破れかかったブサブサの板の隙間に爪を立ててぶら下がり始めた。
そして子供が鉄棒遊びをするように右手と左手を交互に爪を立ててぶら下がりながら巣の方へ進んでいるでないか。
 他特になし

☆1917年6月5日             

(192)力尽きているテンコロに
      雀の親鳥が来襲した


 がんばれテンコロ、もう少しだ力尽きて落ちてきたら下で両手を広げてつかまえてやるぞ、頑張って雛を巣まで持って行け。
大声を駆けてテンコロに声援を送る。

 そうこうしていると、雀の親鳥が帰って来てテンコロの耳や頭、そして目をめがけて突っつき始めた。
 他特になし。

1917年6月6日             

  こらー、親ばか雀、雛の恩人をなんと心得る、作造さんは大声を上げる。
これ以上テンコロを突っつくな、さもないと雀差し雀の焼き鳥、雀の親子丼と雀の海鼠酢のものにするぞ。
両手を振って怒鳴るも雀は知らんぷり。
 (つづく)